〝手と目で看る〟という看護の心を大切に、利用者様に家族のように寄り添い、一緒に働く仲間にとってはステーションが「家」のように感じられる場所を作りたい
さくら訪問看護ステーション・管理者 久保貴恵さん
訪問看護のナースとしてキャリアを積み、この夏自ら管理者となって訪問看護ステーションを立ち上げた久保貴恵さん。訪問看護の仕事のやりがいそして自身の経験も踏まえ、子育てや介護に忙しくて復職したくてもできない〝潜在看護師〟を発掘したい、という思いなどをうかがいました。
まずは、久保さんが看護師を志したきっかけは何ですか。
私が小学生の頃、自宅で母が寝たきりの祖母の介護をしていました。まだ介護保険制度が始まっていない頃でしたが、往診に来るかかりつけ医の先生や、区から来てくださる訪問入浴のスタッフの方にお世話になるのを見ていて、「大変そうだけど誰かの役に立つ仕事をやってみたい!」と思ったのが最初です。
念願の看護師となり、最初はどんな環境でスタートを切りましたか。
看護学校を卒業し、総合病院の手術室に配属されました。手術室の看護師というのは、一人ひとりの患者さんに日々深く関わるというより、手術が適切にスムーズに行われるための、医師の助手的な役割です。3年ほど手術室での看護師の仕事をして自分の看護師として思いやスキルアップに不安を感じ、異動願を出して循環器センターに移りました。
その後、夫が仙台へ転勤となったのを機に、総合病院を退職することになりました。
ケアマネージャーの資格を取り、看護師としての幅が広がった
仙台でも看護師の仕事を続けたのでしょうか。
最初はパートで、訪問入浴の仕事をしました。その頃は、自分の看護師としての次なるステップ、今後どうしていくのかを模索していたという感じですね。
その後、新規立ち上げの形成外科と皮膚科のクリニックで、看護師として働くことになりました。そこのクリニックは、〝手術に対応できるナース〟という募集で、クリニックで日帰りの手術をしたり、やけど跡の治療などクリニックで対応できない手術は、設備の整っている病院の手術室を借り、先生と私で行くこともありました。以前の経験を活かしながら、クリニックでの看護師の勉強もさせてもらうことができました。
ちょうど同じ頃、ケアマネージャーの制度ができ、だったらケアマネージャーの資格も取ろうと思って勉強しました。
では、その後はケアマネージャーとして仕事をされたんですか?
ケアマネージャーの資格はとりましたが、夫の転勤で、東京に戻ることになりました。子育てしながら、社会人として何かしたいと考えていたのですが、子どもが幼稚園や学校に行っている間だけできる看護師の仕事って、なかなか見つからなかったんです。
そのため、仕事としては介護保険の認定調査員やケアマネージャーとして数人担当しました。
実際にケアマネージャーとして働いてみて、いかがでしたか。
高齢者が地域で自宅で生活していくことの大変さを知りました。
認定結果の介護度と実際の利用者さんは、少し違う時もありましたね。
でもこの経験でケアマネージャーの仕事を知り、認定調査や介護度のことも知識として身につけられました。訪問入浴のことも知っています。看護師は病院勤務という選択肢が多いですが、介護の知識を持つことで看護師としての幅を広げられたと思います。
母の在宅看護を経験し、訪問看護の道へ
その後、再び看護師の仕事に戻られたんですね。
私の母が末期癌で家に連れて帰ることになったんですが、自分が看護師の資格を持っていながらすごく不安があったんです。そのとき、「ふつうのご家族にとっては、もっと不安が大きいだろうな?」と感じて。
母を看取り子育てがひと段落して、また看護師として働きたいという思いが出てきました。
母を看取る経験をしたので、訪問看護師として働きたいと思いました。
実際、訪問看護の仕事をしてみていかがでしたか。
最初は一人で利用者様のご自宅を訪問し、時間内に全部やるべきケアして帰らなければならない、という不安が大きかったですね。
でもだんだん、「今度はこういうふうにしてみよう」という自分なりの工夫ができるようになっていき、スキルアップできる手ごたえ、やりがいも大きくなっていきました。
訪問看護のナースとして、どんなことを心掛けていますか。
いつも「家族だけでがんばらなくていい」そう思ってもらえるよう接することを心がけています。自分が利用者の家族の立場だったとき、訪問看護のナースに相談できる、話を聞いてもらえる、ということですごく助けられたんです。安心感が全然ちがいます。
看護というと何か処置してもらう、という部分も大きいかもしれませんが、何かあったときにまずは話を聞いてあげられる安心感をもってもらえる、という部分も大切にしたいと思っています。
利用者様だけでなく、ご家族のサポートも大切なんですね。
ご利用者様のために訪問させいただきますが、一緒に暮らしているご家族がいらっしゃるならご家族ぬきでは在宅生活は送れません。ご家族の生活や健康を守ることも大切だと思っています。
自分の思う「訪問看護」を目指し、事業立ち上げを決意
今回、自ら訪問看護ステーションを立ち上げようと思ったのはなぜですか。
約7年訪問看護師として働き、自分の子どもたちが大きくなり、私自身仕事にウェイトを置ける年齢にもなりました。
この年だからというのも変ですが(笑)、〝チャレンジ〟でもありますね!雇われていた立場から、自分が主として自分の思いを打ち出した訪問看護ステーションを作りたい、〝チャレンジしたい〟と思うようになってきました。
はじめるための〝機が熟した〟という感じでしょうか。
そうですね。これまで私は、非常勤として働いてきたのですが、それは、私にとって看護師の仕事が自分のすべてではなく、家族、子育て、生活のなかの一部に看護師という仕事があり、非常勤でいたほうが自分の生活の中でバランスがよかったからです。
だからこそ小さなお子さんがいる看護師の気持ちもわかり、自分が訪問看護ステーションを立ち上げることで、働きたいけど働けない、〝潜在看護師〟をすくい上げたい、という思いもあります。
時間的な制約があっても、看護師として働く道はあるということですね。
私自身、子育てが忙しくて看護師として離脱していたとき、そこからまた看護師として戻れるだろうか、医療はどんどん進んでいる中で、自分の知識が止まってしまっている不安がありました。本当は働きたいけど働くタイミングがないという人はいると思います。それぞれの生活リズム、子育て、親の介護などがあって、少しの空き時間しかないけれど働きたいという潜在看護師は絶対にいると思うんです。
私たちのステーションは、看護記録はタブレットを使うので直行直帰も可能です。利用者さんによって訪問する時間が違うので、クリニックや病院の看護師のように時間の制限を解除することができます。利用者様と訪問する看護師お互いが良い形でつながっていければいいんじゃないかと思います。
ステーション名「さくら」に思いを込め、利用者様やご家族、スタッフみんなが幸せな気持ちになれるように
どんなステーションにしたいか、展望をお聞かせください。
利用者さんにもスタッフに対しても、「NO」と言わない状況を作れる、そんなステーションにしたいありたいと思っています。「できない」と答えるのではなく、できないなら代替案をできるだけ探し出し、お互いに融通できるあるいは、違った方法を見つける。
努力をして、「NO」という言葉はできる限り使わないようにしたいですね。
そして、利用者様には家族みたいに寄り添い、スタッフにもステーションが「家」だと感じ、訪問先から戻ってきたときにホッとできるような、そんな場所にしたいです。
家族なら、いいことだけでなく大変なことも失敗も話せますよね。そういうステーションを目指しています。
だから事業所での打ち合わせも家族団らんのように、みんなが話しやすい雰囲気で出来るように、と考えているんです。
ステーション名の「さくら」には、どんな思いを込めていますか。
私の自宅がある豊島区は、ソメイヨシノの発祥の地です。桜のお花見って、家族や仲間と行っても独りで行ってもみんな幸せな気持ちになりますよね。桜を見ているときの気持ちにみんながなれたらいいな、という思いから、「さくら」と付けました。
利用者様や地域の方たちへのメッセージをお願いします。
いまはこの中野区という土地に、私自身が飛び込んできた感じです。住んだことも働いた経験もないこの地域に、この町の住人、地域の一人として溶け込めたらいいなと思っています。
看護師として働きたい気持ちが少しでもあるなら、ぜひ私たちの扉をノックしてほしい
これから採用活動もありますが、一緒に働く人たちにはどんなことを伝えたいですか。
訪問看護が未経験でも、まずは訪問看護の楽しさややりがいを感じてほしいですね。利用者様やご家族との信頼関係ができ心がつながったと感じるとき、うまくキャッチボールができ相手が思っていることを感じ取れたとき、真の喜びがあります。
技術はあとからついてくるし、できないことがあればほかのスタッフがフォローしたっていいんです。それよりも、人としてのつながりが私は大好きだし、その楽しさ、人間くささを一緒に味わえたらいいなと思います。
そして、私もスタッフと一緒に成長し、ステーションも成長できるよう、みんなで一丸となってやっていきたいです。
ブランクのある看護師、子育てや介護中の看護師でも働けますか。
はい。少しでもやりたい気持ちがあったら、手を上げてくれたらうれしいです。ステーションを見に来るだけでもいいです。すぐに働くことにつながらなくても、「働ける状況になったらここに来たい」と思ってもらうだけでもいいんです。「いまはパートしかできないけれど、ライフスタイルが変わったら常勤になれます」でもいい。その人なりのスタイルでいいから、看護師として働く背中を押してあげたいですね。
久保さん、本日はありがとうございました。